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企画集会 T02-3
マメ科植物は、根に根粒菌との共生器官である根粒を形成する事により、根粒菌が固定した大気窒素を養分として受け取る事ができる。しかし、根粒の器官分化や窒素固定を支えるエネルギーの提供は植物側のコストとなり、過剰な根粒形成は植物の生育を妨げる。そこで植物は、根粒形成抑制機構を備え持つ事により、自身の生育や環境に見合った根粒数に止めて共生のバランスを保っている。根粒形成抑制機構のうち、一旦充分な数の根粒菌が感染するとその後の新たな感染が抑制される機構(根粒形成のオートレギュレーション)は、個体の根粒数に大きく影響する事が知られている。
根粒形成抑制機構の研究は、抑制が働かない為に根粒数が著しく増加する『根粒過剰着生変異体』を中心に進められてきた。生理学的解析から、オートレギュレーションによる抑制が根とシュート間の遠距離シグナリングを介した全身的なものである事、抑制物質は地上部の中でも葉で作られる可能性が高い事、菌の分泌するNodファクターが根粒形成の開始と抑制の両方に関与する事等が示された。モデルマメ科植物ミヤコグサを用いた分子遺伝学的解析からは、地上部で機能する2つの受容体型キナーゼHAR1とKLAVIER(KLV)が抑制に関与する因子として特定された。その他に、CLE遺伝子群に属するペプチド性因子やCLV2様遺伝子(受容体様タンパク質をコード)の関与も逆遺伝学的解析により示唆された。中でもCLEペプチドは、根粒菌感染により根で特定のCLE遺伝子の発現が上昇し、過剰発現によりシステミック且つHAR1・KLV依存的に根粒形成を抑制する効果が観られた事から、感染を地下部から地上部へと伝える遠距離シグナル因子の候補と考えられる。このような知見に基づき、現在予想されている根粒形成とその抑制に関するモデルを紹介する。