| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
企画集会 T03-1
博物館の研究は論文を書いて終わりではない。それまでの過程とその後の展開が大切である。地域を研究しながら、それらを教育、展示、観光、地域振興、生態系保全など多彩な事業へ発展させ、住民の自然や地域への眼を養い、意識を変えていくことが学芸員の仕事であり、これが博物館の生態学である。
博物館の生態学の強みは、地域という研究フィールドに住民というたくさんの眼をもっていることである。この力を十分に発揮することができれば、より広範囲に標本収集や生態系のモニタリングをすることができ、それは、純粋な学術研究のみならず、希少種の保護、里山保全、ひいては地球温暖化など様々な課題を解く手がかりを与えてくれるであろう。
演者が勤務する十日町市立里山科学館キョロロでは、現在、野鳥、植物、水生生物のモニタリング調査をいずれも月1回、地域住民と共に実施している。また、随時、アカショウビンなどの野鳥の渡来・繁殖状況、希少種・外来種の季節消長や分布情報を地域住民に呼びかけて収集している。また、地域の小中学校と共に地域モニタリングを進めていくための研究を科学技術振興機構の助成により、地域住民と都市住民が協働して森林の生態系モニタリングを進めながら里山保全を実践していくための研究を農水省の助成により進めている。また、これらたくさんの眼によって得られた情報を効果的に共有、発信していくためのICTツールの研究開発も総務省の助成により行っている。これらの研究はそれぞれに目的はあるものの、共通した大きな目的は、‘地域住民との協働研究による里山保全と地域づくり’である。
博物館のモニタリングの研究は、博物館の個性や地域性に深く関わっているため、手法や成果も分散し、未熟な面も多いが、それらの多様性を総合的にまとめていくことによって、生態学における地域研究のコアとして、また、地球研究のサテライトとして、より大きな役割を担っていくであろう。