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企画集会 T03-3
横須賀市博物館附属馬堀自然教育園は、三浦半島東端の東京湾に面した丘陵地にあって、森林の保全と環境教育を目的に1959年に開設された。この50年間、動植物の自然観察会などを定期的に行う一方、森林の保全に努めてきた。最近ではこの地域の里山と水辺環境のモニタリングサイトとしての役割も果たしている。1882年の迅速図によれば、園内の平地は水田、斜面はマツ林やクヌギ、コナラ林であり、1897年から1945年まで、平地が陸軍の弾薬庫となっても、施設周辺の森林はあまり手つかずに維持されたと推測される。開園後に、園路や水路の整備などが行われたが、間伐などはなされなかった。2003-05年の市民協働による園路周辺の樹木調査では、高木層はスダジイ、モチノキ、タブノキ、ケヤキ、オオシマザクラの順に個体数が多く、大径木はケヤキ、コナラ、ムクノキ、シラカシなどに見られたことから、この森林はシイ・タブ林への遷移途上であると推定された。1959年開園時の植物目録と80年代の再調査、03年からの再々調査との比較から、1)クロマツの衰退と照葉樹やアズマネザサの繁茂に伴い、林内は暗くなり、チゴユリやハグロソウなど林縁や疎林の林床植物が姿を消し、低木層はアオキ、ヤツデが繁茂し、林床にはタシロラン、クロヤツシロランなどが見られるようになったこと、2)逸出したセンリョウ、マンリョウなどが増え、トキワツユクサの繁茂によって、ドクダミやフウトウカズラが減少してきたこと、3)高木層が変化しながらも、周辺では減少したミヤマナルコユリ、エビネ、シュンラン、カントウカンアオイなどが残されていること、などが明らかとなった。また、市民協働による樹木の枝払い、アズマネザサ、トキワツユクサ、シュロの除去などの保全活動は、ヤマユリの増加などの結果を生み始めた。今後は間伐なども試み、多様性の維持に努め、三浦半島の里山管理のモデルを提供したい。