| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
企画集会 T03-5
近年、希少種の保全に向けた調査研究は、博物館の新たな業務として定着してきたように思う。演者の勤務する博物館でも、多くの職員が様々な分類群に属する希少種の保全に携わっている。それらは希少種の分布状況や個体数のモニタリングが主で、一般市民との協働で実施されている場合が多い。このような協働調査によって、希少種がおかれている現状の客観的な評価が可能になってきた。しかし、希少種の生活史特性や生息環境をも項目とした調査は以外に少なく、希少種の生態的特性の理解や、保全に向けた具体的な提言には至っていない場合もあるように思われる。
当市には、極めて稀な沈水植物の自生するため池が存在するが、近年、当該種の生育状況が急速に悪化した。演者らは、当該種の保全に向け、地元の植物研究者、市・県の担当部局らと協働で、当該種の生育量や水質・底土質等の経年変化を調査している。今年度からは、地元住民ともより緊密な連帯がとれるようになり、池の部分的水抜き・池干しや、当該種の埋土種子からの再生を目指した休耕田への底土のまき出し試験が実施できるようになった。また、自生池から流れ出たシュートに由来する個体の栽培・増殖を、市内の複数の施設や地元の小学校で行ってもらっている。このように、万が一(自生池からの絶滅)の際への対応も考慮した、保全体制が徐々に整いつつある。
調査は未だ約5年継続してきたに過ぎないが、おぼろげながらも個体群の衰退原因が見えてきたこと、それによって当該種の保全に向けた具体的な対策がたてられるようになってきたことが、現在の協働体制の拡充に繋がっていると考えている。しかし、順応的管理を行うためにも、より長期的なモニタリングが重要であると思われる。また、これまでに蓄積してきたデータの新たな活用法や、より長期的なモニタリング体制づくり等、解決すべき課題も山積している。