| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
企画集会 T04-3
ハエ目タマバエ科には,腐食性や菌食性,植食性,捕食性など,様々な食性の種が含まれている.既知種の大部分は植食性で,寄主植物に種特異的な形状のゴールを形成する.昆虫により形成されるゴールは,多くの場合複雑で精妙な構造をしている.また,ゴール組織は生きた植物細胞から構成されているにもかかわらず,その発生プランは昆虫が決定しており,昆虫の存在なしにはゴールと同様の形状が植物体上に誘導されることはない.したがって,ゴールは植物体を介して発現する昆虫の「延長された表現型」とみなすことができ,植物と植食者の相互作用を研究する上で非常に興味深い対象と言える.また,ゴール形成者は,一生のほとんどをゴール内で過ごす種も多く,個体数が把握しやすいため,自然個体群を対象とした生態学的研究に適した材料である.
タマバエ類に関しては,近年,分子生物学的手法を用いて,従来は解明が困難であった生活史や寄主範囲を明らかにする研究が展開されており,生態学的に興味深い知見が蓄積されている.この取り組みは,世界規模で遂行されているDNAバーコーディングプロジェクトに先だって独自に始められた研究のため,解析に用いられている領域は若干異なるものの,その手法自体はDNAバーコーディングと共通の概念に基づいている.そこで本講演では,タマバエ類に“DNAバーコーディング”が用いられるようになった背景,そして,これまでの研究の中から,(1) 欧州および日本産ショクガタマバエの種内交雑と遺伝子汚染の可能性に関する研究,(2) シロダモタマバエの羽化とシロダモの開葉時期の同時性に関する研究,(3) バラハオレタマバエの栽培施設への侵入源に関する研究,(4) ダイズサヤタマバエの生活史と寄主交代に関する研究など,いくつかの事例を紹介し,生態学的研究におけるDNAバーコーディングの有用性について考察したい.