| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


企画集会 T05-3

寄主特異性の進化を近縁種間の繁殖干渉で説明する

西田隆義

この講演では、近縁種間のRIによって植食性昆虫の寄主選好性と分布が統一的に説明できることを示す。植食性昆虫は数十万種におよび、その多くはスペシャリストである。そして近縁な植食者には際だった寄主選好性の違いや排他的な分布がみられる。しかしこの現象を説明するのは難しい。なぜならば、同じ寄主植物をめぐる資源競争は存在しないので、資源競争説は適用できず、しかもスペシャリストが高いパフォーマンスを示すわけでもないので、共進化説も疑わしいからである。近縁種の間には潜在的に繁殖をめぐる負の相互作用がある。そして重要なことは、全く交雑しない場合であっても、メスは他種オスからの性的な干渉により時間やエネルギーというコストを支払う可能性があることだ。  

われわれは、こうしたコストが存在する場合に近縁な2種がどのような寄主選好性と空間分布を示すかを格子モデルによって調べた。その結果、1)寄主への特殊化、2)隔離分布、および3)共存の3つの結果がこの順に生じやすいことがわかった。この結果を、繁殖干渉の程度と寄主適合性の違いという2つの条件によって整理すると、繁殖干渉がある程度強く寄主適合性の違いが小さければ隔離分布が、繁殖干渉が存在し寄主適合性に違いがあれば寄主特異性が、繁殖干渉がないときには寄主適合性の違いがかなり大きくない限り共存が生じることがわかった。これに対して、種間の資源競争だけでは、寄主適合性にかなりの違いがある場合でも、特殊化や隔離分布はほとんど生じなかった。つまり資源競争や寄主適合性の違いは単独ではマイナーな要因だが、繁殖干渉が同時に存在すると、繁殖干渉の回避というメカニズムを通じて強力な隔離機構として働いていた。これらの結果を、野外での実態と比較して論ずる。

日本生態学会