| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
企画集会 T07-1
繁殖のタイミングがどのように生殖隔離と種分化に関わっているのか、最近とくに関心が高い。生物は、概年、概潮、概日、そして超短周期など実に様々な時間軸に沿って生存戦略を進化させてきた。したがって繁殖に関わる行動戦略もまた様々な時間軸上で繰り広げられている。
本講演では、とくに概日リズムを操る遺伝子と繁殖行動についてミバエ類で明らかにされたことを概説する。概日リズムを刻む時計遺伝子はショウジョウバエをモデルとして多くの分子的知見が蓄積された。昆虫の多くの種では一日のうち交尾する時刻が限られている。行動は概日リズムに左右され、交尾行動もまた時計遺伝子の支配を受ける。交尾時刻が厳密に限定される種の多いミバエ類は、時計遺伝子と生殖隔離の格好の研究材料とされ、キイロショウジョウバエで解明された時計遺伝子のホモログから概日リズムを支配する遺伝子の解明が試みられている。これまでにクイーンスランドミバエ類では概日リズム関連遺伝子cryptochrome(cry)の発現周期の違いが近縁種間の生殖隔離に関与する可能性が指摘された。ウリミバエでは概日時計遺伝子periodが関与するフィードバックループの変異が交尾時刻の違いに関与し、その結果、生殖を隔離しうる可能性が明らかにされた。
最近、私達はウリミバエで、交尾開始時刻とcry遺伝子がコードする特定のアミノ酸置換率とが、集団レベルにおいて有意な相関を示すことをSNP解析によって明らかにした。ただしこのアミノ酸変異がCRYの機能、ひいては時計機能にどう影響するかは現在のところ不明である。アロクロニックな生殖隔離と時計遺伝子の今度の研究の方向性についても議論を提供する。