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企画集会 T07-4
キスゲ属の近縁な2種、キスゲとハマカンゾウでは、花の寿命はほぼ半日であり、開花時間はほとんど重複しない。キスゲは夕方開花して翌朝に閉花する夜咲き種で、黄色の花冠と甘い香りを持ち、夜行性のスズメガ類によって送粉される。一方、ハマカンゾウは朝開花し、夕方に閉花する昼咲き種で、朱色の花冠を持ち、香りはなく、昼行性のアゲハ類によって送粉される。夜咲きのシンドロームが、昼咲きのシンドロームから進化する過程では、開花時間を決める主要遺伝子の突然変異が、時間的な生殖隔離として、大きな役割を果たした可能性がある。
2種は人工的に雑種が作成でき、開花時間の遺伝的基盤を調べるのに適した材料である。そこで、親種・F1・F2について開花から閉花の様子を撮影した。F1では、多くの個体が朝に開花したが、昼や夕方に開花する個体もあり、朝に開く花と夕方に開く花を両方咲かす個体もいた。F2の開花は朝と夕方に集中し、二峰型分布を示した。また、ほとんどのF1は夕方に閉花し、F2は多くの個体が夕方に、その他は主に朝に閉花した。
雑種における開花時間から、概日リズムや開花に関する遺伝子レベルの研究成果をふまえ、開花時間の遺伝的制御について議論する。F2では、開花開始時刻が2つの最頻値を示したことから、開花時刻が主要には1個の遺伝子によって制御されていることが示唆された。一方、閉花については、開花開始時刻を制御する主要遺伝子とは別の主要遺伝子によって制御されているが、その表現型は、開花開始時刻を制御する主要遺伝子の遺伝子型に依存していると考えられる。F1の一部の個体において、個体内で開花時刻にばらつきが見られたのは、概日リズムの制御を受ける開花開始遺伝子がヘテロ接合の状態になっているためだと考えられる。