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企画集会 T09-1
急速に分布を拡大している外来生物を管理するためには,将来の分布拡大パターンを予測するモデルが不可欠である.外来生物の分布拡大モデルの推定には外来種の分布データが用いられることが多いが,分布拡大途上にある外来生物の分布パターンは定着地点の環境だけでなく,ソース個体群からの散布によっても決まる.したがって,これらの影響を適切に分離しなければ推論や予測を誤ることになる.
また,生物の分布を決定する要因のなかには我々が気づかないものや観測不可能なものがあり,多くは空間的に近い地点ほど類似する傾向がある.このように観測していないが場所によって少しずつ異なる要因である空間的ランダム効果を考えることで,各地点をまったく独立に扱う従来の手法よりもモデルの推定精度を高めることができる.
本研究においては,小笠原諸島母島における外来樹木アカギの分布域の時間変化および環境要因データから,空間的ランダム効果を考慮した分布適地と分散プロセスを同時に推定する階層ベイズモデルを構築し,パラメータ推定をフリーソフトWinBUGSで行った.モデルの構造は次の通りである.
1.現在の外来種の分布確率は,散布確率と定着確率の積として表現する
2.散布確率は過去の分布域からの距離に従い減少する
3.定着確率は環境要因および空間的自己相関項によって説明される
4.空間的ランダム効果の滑らかさを表現するCAR(条件付自己回帰)モデルを事前分布に導入する
これまで,外来種の分布パターンの解析にはロジスティック回帰モデルなどの最尤法を用いた手法が多く用いられてきたが,観測できない空間的なトレンドを推定することや,背後にあるプロセスを考慮したモデル化は困難であった.分布パターンの予測力やモデルに基づく推論を従来の手法と比較することにより,階層ベイズモデルを用いる必要性を明確にする.