| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


企画集会 T09-3

空間自己相関を考慮した湿地における絶滅危惧植物の分布予測モデル

*石濱史子, 小熊宏之, 武田知己, 竹中明夫(国環研)

野外の生物をみると、しばしば空間的に集中して分布しているところといないところがある。このような分布は、適した環境条件が集中しているためだけでなく、偶然性が高い中・長距離散布によってたまたま移入・定着が起きたかどうかなども原因となって生じる。後者の影響を無視してしまうと環境要因の影響が正確に推定できなくなる可能性がある。こういった問題の解決には、分布していると観測された場所の付近では存在確率が高くなるという”空間自己相関”を考慮したモデルが有効である。

渡良瀬遊水地での航空写真のデータから、絶滅危惧種を含む草本種の分布推定を行った。撮影は主にデジタルカメラで行い、RGB・近赤外の4バンドに加え、立体視により地盤高と最大草丈を推定した。地上踏査は2006・2007年に行い、ライン上に約20m間隔で設置した50cm×50cmの方形区内の出現種およびその被度を合計635地点で記録した。

これらのデータを用いて、単純なロジスティック回帰モデルと、空間自己相関の記述によく用いられる条件付き自己相関(CAR)モデルで分布予測を行った。モデルのパラメータ推定は、マルコフ連鎖モンテカルロ法を用いたベイズ推定によって行った。その結果、ほとんどの種で空間自己相関を考慮したCARモデルのほうが影響の大きな説明変数の数が少なくなるとともに、モデルの当てはまりの良さが向上した。種によっては分布推定に有効な説明変数が大きく入れ替わった。空間自己相関を考慮しないモデルでは、本来、空間自己相関で説明されるべき効果を無理に環境変数の効果に当てはめてしまっていたため、変数の数が多かったと考えられる。発表では、空間自己相関を生じた原因や、種間での効果の差の原因について議論したい。

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