| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


企画集会 T09-5

ベイズキャリブレーションによる外来生物の分布拡大予測:セイヨウオオマルハナバチを事例に

角谷拓(東大)

生物の分布拡大では、分布が定常状態にないこと、空間依存的プロセスを含むことなどから従来の統計モデルの利用が難しい。さらに、どのような場所でどのような管理をすれば分布拡大を抑制できるか?といった空間明示型の問いに答えることが求められる場合も多い。シミュレーションモデルはこのような状況に柔軟に対応できる有効なツールの一つであるが、パラメータ推定に使える直接的なデータが利用できないことが多く、信頼性の高い推定が難しいという欠点があった。ベイズキャリブレーションは、この欠点を補う手法の一つである。観察パターンに対するモデル予測の尤度にもとづいてパラメータ分布を推定するベイズキャリブレーションを用いることで、野外で得られた様々なタイプの観察パターンからパラメータ推定が可能になる。

本研究では、ハウストマトの受粉昆虫として利用が開始され、近年北海道において急速に野外での分布を拡大しているセイヨウオオマルハナバチ(以下セイヨウ)の分布動態予測シミュレーションモデルを構築し、ベイズキャリブレーションによりパラメータの推定を行った。モデルでは、セイヨウの分布拡大が(1)移動分散および(2)定着の2つのプロセスの同時確率で決まると定義し、それぞれのプロセスごとにモデリングを行った。具体的には、移動分散プロセスには、周囲での個体群定着の有無およびトマトハウスからの逃げ出し量が、定着プロセスには該当グリッド内における樹林率、積雪量、水路延長がそれぞれ影響を及ぼすと仮定した。観察データを良く再現できるパラメータセット(2つのプロセスの各環境要因への依存性の強さ)の特定を行なうために、以上のモデルによる予測と市民参加型調査によって得られたセイヨウの分布(観察パターン)とを比較した。

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