| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
企画集会 T10-2
カムチャッカとサハリン(中村、未発表)、ならびに国内の既存資料や北海道における演者の資料に基づき、北東アジアの高山植生、とくに高山荒原植生と高山草原植生に焦点を当てて、それらの分布と分化について考察する。植物群落は、それぞれを特徴づける種組成と生態的特性を有するが、同時に、群落特有の分布型組成を示す傾向があり群落ごとの地史的背景を推論することができる(中村1986、中村1987、佐藤2007)。その観点から、北東アジアの高山荒原植生と高山草原植生に属する植物群落の分布型組成を分析し、特定の生態的特性を持つ群落ごとに推論できた地史的背景について述べる。高山荒原では、火山噴出・ソリフラクションが生じる風衝地・立地の安定性が問題となる崩壊地・積雪が遅くまで残る雪田・超塩基性岩や石灰岩のように地質が植物の生育に直接影響する特殊岩地など、種々の生態的要因が複合した群落立地が認められるが、とくに北東アジア要素が多い火山荒原、北太平洋要素が多い雪田荒原ならびに固有種が多い特殊岩荒原など、群落特有の分布型組成を認めることができる。他方、高山草原は、高標高地の風衝地とともに、比較的低い標高地にある超塩基性岩や石灰岩などの特殊岩地にも成立する。これらは、共通して周北極要素によって特徴づけられるが、後者の特殊岩地ではさらに群落ごとに地質に対応した遺存固有種が加わる。以上のことから、北東アジアの高山荒原植生と高山草原植生の地史的な植生分化に関して、とくに火山と地質の影響が大きいと言える。さらに、火山や特殊岩地に見られる高山植生は、温度気候的な高山帯だけではなく、比較的低い標高地にも成立することから、高山植生の後氷期における遺存過程は、火山における新たな種分化や特殊岩地における隔離遺存・種分化を背景にしてきたとの推論も可能である。