| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


企画集会 T11-1

高山帯のユニークな生態系構造と高山植物群集の気候変動への応答

*工藤岳・平尾章・亀山慶晃・川合由加(北大・地球環境)

高山生態系は、標高・地形・斜面方向などを反映した微細なモザイク構造を呈しており、高山植物群集組成は積雪パタン(積雪量と消雪時期)と良く対応していることが知られている。高山生態系の構成要素は風衝地と雪田であり、それぞれのハビタットに成立する群集は、種組成のみならず、生育型やフェノロジー特性も大きく異なっている。局所的な雪解け傾度は植物の分布だけではなく、生育期間や開花フェノロジーにも直接影響し、近隣個体群間や連続した個体群内においても花粉散布を介した遺伝子流動の方向性により、遺伝構造が形成されていることが分かってきた。また、近縁種間の交雑による雑種形成パタンも、雪解け傾度に沿った遺伝子流動の方向性と対応があることが見いだされた。雪解け時期の異なるハビタット間には、異なる自然選択圧が作用していると考えられ、遺伝子流動の方向性は局所的な進化を促進させる場合もあり、より明瞭な遺伝構造の発達や、個体群間の遺伝的分化が生じると予測される。気候変動により、高山生態系では温度だけでなく、積雪パタンや植物の季節性・生育期間も変化すると予測されている。その結果、既存の遺伝子流動パタンは大きく攪乱されるであろう。さらに、7年間の温暖化実験の結果、環境ストレスの緩和に対する植物群集の応答は、ハビタットタイプや標高により大きく異なることが示された。これらの研究結果は、温暖化に対する高山生態系の応答が非常に複雑であることを示唆している。これまでの高山帯における研究成果を概観し、気候変動が高山植物群集に及ぼす影響について予測する。

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