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企画集会 T11-4
環境変動への生態系の応答を評価・予想する上で、現状における生態系の構造と機能を正確に把握することは極めて重大な課題である。一般に生態系内での物質とエネルギーの流れの大部分には微生物が関与していると考えられる。特にバクテリアは機能的に著しく多様であり、特異的な機能を有するものも多いことから、バクテリア群集が生態系において果たす役割は極めて重要なものであると予想される。しかしながら、環境中でのバクテリア群集の構造や機能を解明する試みは技術的な制限を大きく受けている。特に、調査の実施に困難を伴う山岳湖沼の微生物群集に関する知見は限られたものに留まっている。本研究では、各地の高山湖沼のバクテリア群集を調査・比較することで、この環境に特有な群集構造の特徴を明らかにすることを目的とした。東日本各地の湖沼から表層水を採取し、湖水中の懸濁物をフィルター上に濾過濃縮して解析用の試料とした。持ち帰った試料から直接DNAを抽出し、全バクテリアに共通する遺伝子である16S rRNA遺伝子をPCR増幅した。得られた産物は変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)による解析に供した。各湖沼のDGGEプロファイルを元に類似度を算出し、デンドログラムを作成した。その結果、湖沼の標高に対応したクラスターが形成されることが示された。主要なDGGEバンドについては塩基配列の決定を行った。得られた配列に対して高い相同性を示す配列をデータベース上の配列から検索した結果、今回得られた配列に近縁な配列は、必ずしも高山帯から特異的に検出されるものではなかった。高山湖沼の水中バクテリア群集構造の特異性は、特定のバクテリアの存在ではなく、群集を構成する分類群の出現パターンによって特徴付けられるものであることが示唆された。