| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


企画集会 T11-5

高山・亜高山帯における陸域−水域間の連結:湖沼食物網への陸上炭素の流入

*岩田智也・保坂啓太・望月菜穂香(山梨大・工)・占部城太郎・鈴木孝男・八神遥介・加藤恵理子・加藤聡史(東北大・生命科学)・福井学・小島久弥・藤井正典・堤正純・末松耕平(北大・低温研)・高津文人(科学技術振興機構)

山岳湖沼の多くは自生性の有機物生産が低く,生物群集は主に陸域から流入する有機物によって維持されていると考えられる.もしそうであるなら,陸上生態系の変化が湖沼の食物網にまで影響を及ぼす可能性がある。そこで我々は、山岳湖沼食物網のエネルギー源を特定し陸上有機物の貢献度を明らかにすること、さらに陸上炭素への依存度が高い湖沼の地理的特徴を抽出し、陸域環境変化に対し脆弱な湖沼を特定することを目的に研究を行ってきた。

調査は、中部地域から北海道にいたる計45の山岳湖沼で行った。各湖沼では、食物網の起点となる有機物 (陸上植物・付着藻類・植物プランクトン)と消費者を採集し、これら生物試料の炭素安定同位体比から食物網内の炭素フローを推定した。また、一部の湖沼では、高精度ウィンクラー法を用いた明暗瓶法により表水層の生態系代謝(総生産・呼吸)を測定した.

沖帯の食物網についてみると、生産性の低い湖沼ほど、動物プランクトンは陸起源の有機物に強く依存していた。このような水域では、微生物による有機物代謝が群集呼吸のほとんどを占めており、自生性の総生産や外来性の陸上有機物は、その多くが上位栄養段階に転送されずに無機化されている可能性が高い.すなわち、低生産湖沼の動物プランクトン群集は、陸上炭素を起点とする貧弱な微生物ループによって維持されていると思われた。一方、沿岸帯食物網についてみると、面積の小さな湖沼ほど陸上からの栄養流が底生動物群集に強く流入していた。このことから、流域からの有機物供給の変化は、貧栄養で水体サイズの小さな山岳湖沼の生物群集に大きく影響するものと考えられた。

日本生態学会