| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
企画集会 T12-4
水域生態系において、溶存酸素は水生生物の生存に大きな影響を与える。また、溶存酸素をはじめとする溶存ガスの動態研究は、水域の環境状態を把握するための一つの重要な手段とすることができる。しかしながら、水域の物質代謝を考える上では、通常行われる昼間だけの観測では代謝の一側面のみをとらえている可能性がある。特に、富栄養な水域における物質代謝を明らかにするためには、光合成の卓越する昼間と呼吸のみがおきる夜間の変動が、生物の生息環境を診断する上で重要な観点となる場合がある。近年、物質の濃度に加えて溶存物質の各種安定同位体比が測定できるようになり、物質代謝のプロセスに関してより詳しい解析が行なえるようになってきた。
本発表では河川生態系の例を取り上げる。モンゴル国ウランバートル近郊河川では、近年のウランバートル市の人口急増にともなって下水処理水が多量に流入し、著しい富栄養化がおこっている。また、この河川水はウランバートル南側を流下するトール川に流れ込むことによって、ウランバートルより下流側のトール川の水質および生態系に大きな影響を与えている。今回紹介する調査は、ウランバートル近郊河川において2006年9月8日16時から48時間にわたり、2時間置きに各種栄養塩の存在量および硝酸の安定同位体比、溶存酸素・溶存無機炭素・メタン・一酸化二窒素の存在量および安定同位体比を測定した。この2昼夜の観測によって、光合成の昼夜変動からおこる溶存酸素の生産/消費のバランスは劇的に変わり、溶存ガスの濃度とその同位体比に大きな変化を与えた。本発表では、これらの観測結果および関連する文献に関してレビューを行ない、河川における各種安定同位体比を用いた生態系のメタボリズム解析手法について紹介する。