| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
企画集会 T12-5
食物網構造の研究において、生物の窒素安定同位体比(δ15N)は生物の栄養段階の解析に、炭素安定同位体比(δ13C)はエネルギー基盤の解析に用いられてきた。
河川生態系では流域からの人為的な窒素負荷の影響が増大するに従い、その基盤有機物のδ15Nは上昇し、それらを利用する一次生産者や捕食者のδ15Nも上昇する。しかしながら、土地利用様式が大きく異なる滋賀県の琵琶湖に流入する30余りの河川を対象にした今回の調査結果からは、人為的な窒素負荷に伴う生物のδ15Nの上昇幅や上昇パターンは生物種によって大きく異なることが明らかとなった。こうした事実は、河川生物にとっての窒素源は多様であり、人為的な窒素負荷の大きな河川で生物の栄養段階や窒素源の変化が起きていることを示唆していた。本発表では人為窒素負荷に伴う河川の各種有機物プール(礫上付着物、河岸堆積物、懸濁態粒子)と水生生物(主として動物)のδ15Nの変化を紹介することで、人為的な窒素負荷が河川生物の栄養段階や窒素源に与える影響について考察する。
河川生物のδ13Cからは通常δ13Cの異なる陸起源有機物と藻類起源有機物のそれぞれのエネルギー基盤としての寄与率を解析することができる。しかしながら、琵琶湖流入河川では藻類起源有機物のδ13Cの時間変化が非常に大きく、陸起源有機物のδ13Cと分離が困難なため、人為負荷に伴うそうした寄与率の変化を検出するには至っていない。本発表ではダム直下や河川サイズに伴う河川生物のδ13Cの明瞭な変化から食物網のエネルギー基盤の変化についての考察を行う。
以上の成果から、河川生物の安定同位体比から生態系特に河川食物網構造の評価を行うにあたっての利点と問題点を、湖沼や海洋など他の水域生態系と比較することで整理していく。