| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


企画集会 T13-4

河川中流域の食物網における間接効果が魚種間関係に与える影響

片野 修(中央水研)

河川の魚種間関係について、直接的相互作用と間接的相互作用の両方に着目して解析した。カマツカ、ウグイ、オイカワ、アユは河川の中下流域に生息し、この順に動物食の割合が高いが、無脊椎動物と底生藻類の両方を利用する雑食性ギルドに含まれる。流水プールに、これらの魚種を比率を変えて放流し、水生無脊椎動物や底生藻類の変化とともに解析する実験を行った。カマツカ、ウグイ、オイカワの存在は、いずれも藻食性の水生無脊椎動物を減少させることによって底生藻類の現存量を増加させる栄養カスケードをひきおこし、ひいてはアユの成長を著しく高めた。これらの魚種は、直接摂食することによって藻類を減少させる効果をもつ。しかし、全体として藻類の現存量が増加したということは、直接のマイナス効果よりも間接的なプラス効果の方が大きかったことを示す。一方、アユはこれらの他魚種の成長を低下させたので、両者の関係は片利片害関係(contramensalism)である。さらにアユは、スミウキゴリなど、アユとは異なる生活型をもつ底生魚類に対して、食物の重複度がきわめて小さいにもかかわらず、強い負の影響を与えた。アユは同じ石を繰り返し食むことによって、石の上面にすむユスリカなどの双翅目を著しく減少させたが、これらは底生魚にとって重要な食物となっていた。アユは藻食にともなう水生昆虫への間接効果によって、底生魚の成長や個体密度を低下させると考えられた。

以上のように、河川の魚類と水生昆虫類は同一の食物ギルドに属しながら、さまざまな直接・間接的相互作用によって結ばれている。一方で、アユやスミウキゴリなどのハゼ科魚類は両側回遊魚であるために、その個体密度は海洋生活期の減耗率によって影響される。アユが多くの淡水魚に負の影響を与えるにもかかわらず、これらの魚種が共存できることには、生活史の違いも関係すると考えられる。

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