| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
企画集会 T14-2
2007年8月3日、環境省により他の分類群とともに植物I(維管束植物)のレッドリスト見直しの結果が発表された。維管束植物のレッドリストは、世界で初めてIUCN判定基準のE基準、すなわち絶滅確率の推定結果に依拠して絶滅危惧IA(CR)、絶滅危惧IB(EN)、絶滅危惧II(VU)のランクを判定する方法を優先する手法で編まれたレッドリストである。絶滅確率の算出のためには現存個体数とともに過去からの減少率に関するデータが不可欠である。減少率のデータは一般に取得が困難だが、維管束植物については、各都道府県の植物について高度な知識・経験をもつ調査員の協力と、日本植物分類学会の絶滅危惧植物問題専門委員会を中心とした研究者の尽力によってこの困難を克服し、定量的で透明性の高い評価が行われている。しかし、絶滅確率の算出にはその根拠となるデータの取得の段階でも、またシミュレーションによる予測の段階でも不確実性がある。現在レッドリストは環境影響評価や自然再生事業の現場において強く重視されているが、活用する上では評価の不確実性について十分に理解しておく必要がある。また、危機の程度の評価においても、レッドリストの現場での活用実態を踏まえ、生物多様性保全という最終的な目標に対して最適な手法を検討することが必要であろう。本講演は、旧レッドデータブックではCRとされ、新レッドリストでは準絶滅危惧種に変更されたアサザを主な材料として、クローン植物の「個体数」推定手法、土壌シードバンクを形成する植物の絶滅確率の評価手法、個体群の存続が保全努力に依存していることへの考慮など、評価における問題点を整理し、保全の現場でレッドリストを活用する上での留意点や現在の評価に加えるべき視点の議論に向けた話題提供とする。