| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


企画集会 T15-3

低インパクト伐採による土壌動物、土壌微生物への影響

*吉田智弘, 長谷川元洋 (森林総研・木曽), 喜多智 (京大・生態研)

低インパクト伐採(RIL)は、持続的な熱帯林管理をおこなううえで有効な手段であるが、それらの生物多様性に対する保全効果は十分に明らかにされていない。生物多様性保全に対する効果を検証するには、オランウータンのようなフラッグシップ種だけでなく、調査地域に多数存在する生物群も対象として調査をおこなう必要がある。土壌動物および土壌微生物は、普遍的に存在する多様な生物群であるだけでなく、有機物分解や養分の無機化において重要な役割を担っており、それらの群集組成や活性は生物多様性保全を評価するための生物指標として適していると言える。そこで本研究では、RILの導入が土壌動物および土壌微生物に及ぼす影響を明らかにするために、原生林、RILが行われた森林(RIL区)、従来型伐採林(従来型区)における、(1)林床に生息するアリ類を中心とした土壌動物の群集組成と、(2)土壌表層・有機物層での土壌微生物活性(土壌呼吸活性、窒素無機化活性、リン酸分解酵素活性)について比較を行った。

その結果、土壌動物の分類群数は3林分間で差はみられなかったが、アリ類の種数は、従来型区において低く、RIL区では原生林区と同程度であった。一方、土壌微生物では、土壌表層における土壌呼吸活性は、3林分間で差がみられなかったのに対して、リン酸分解酵素活性は、従来型区では原生林区と比較して約40%減少していたが、RIL区では原生林区とほぼ同様の値を示した。このように土壌動物・微生物に関するいくつかの項目では、従来型伐採により変化・減少するが、RILが行われた森林では原生林と同程度の値を維持しており、RILが生物多様性の保全に有効であることが示唆された。

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