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企画集会 T16-1
ニッポンバラタナゴ(ROK)は日本固有亜種であり,かつては西日本に広く分布していたとされる。しかしながら,本種は近年生息地の縮小ならびに個体数の減少が著しく,現在環境省により絶滅危惧IAに指定されている。本種の主な減少理由は亜種である中国産タイリクバラタナゴ(ROO)との交雑であるが,その具体的な仕組みについてはよく判っていない。近縁外来種との交雑による在来種の絶滅は決してバラタナゴに限られたものでなく,現在他の多くの生物においても問題となっている。本研究はこうした背景を基に,バラタナゴ2亜種を材料に近縁外来種の侵入による在来種の絶滅を実験的に再現し,その仕組みを分子生態学的手法により明らかにするものである。
2003年から人工池(15m×5m)においてROK(50ペア)とROO(5ペア)の野外飼育実験を行い, MSとmtDNAの遺伝子頻度の変化を追跡した。ROKは2年目以降確認されず,ROOの頻度は初年度には増加したもののその後は減少し,5年目にはほぼ全ての個体が雑種と判定された。MSに置けるHardy-Weinbergの遺伝平衡は3年目に,MSとmtDNAにおける連鎖平衡は4年目に確認された。ROKのmtDNAの頻度は実験開始後,継続して減少したが5年目には増加した。MSの主成分分析において雑種のゲノム構成は時間の経過と共にROOに偏る結果となったが,4年目以降は安定した。なお,人工授精を用いた飼育実験において,ROOの適応度はROKの約160倍と推定されたが,雑種との差は殆ど認められなかった。
以上の結果からROOとの交雑によるROKの絶滅は,主に亜種間の適応度の違いに起因し,雑種における遺伝子置換は連鎖平衡に達するまで続く事が示唆された。連鎖平衡後のROKのmtDNAの頻度上昇がmtDNAの適応度の違いに因るものであるかについては,今後の検討が必要である。