| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


企画集会 T16-3

AFLP法に基づく日本に定着したニジマスとテラピアの集団構造分析

高橋洋(水産大学校)

北アメリカ原産のニジマス(Oncorhynchus mykiss)とアフリカ原産のテラピア類(Oreochromis mossambicusO. niloticus)は、いずれも養殖魚として意図的に導入された経緯があり、移殖の歴史の長さや規模が比較的大きい。またこれらの外来種は、各地で野外に放流された(あるいは逸散した)にもかかわらず、地域によって定着率に差があり、外来種の定着要因を知る上で図らずも良い実験系となっている。本研究では、その定着過程や要因を解明する基礎として、原産地の情報との比較が容易なmtDNAの塩基配列と、核ゲノムの多型を効率良く捉えることのできる増幅断片長多型(AFLP)に基づき、国内における定着集団の集団構造分析を行った。その結果、国内のニジマス集団は、カリフォルニア州の複数の水系に由来し、複数回の導入によって原産地の遺伝的多様性のかなりの部分を受け継いでいることが明らかになった。また、AFLP分析からは、管理されている飼育集団よりも野外集団のほうが、遺伝的多様性が高いという傾向が示された。一方、テラピア類の2種はmtDNAの多様性が小さく、原産地の遺伝的多様性の一部のみを保有していることが示された。このことは、これらの種が原産地から直接導入されたのではなく、第三国を通じて飼育系統が導入されたことによるものと思われる。しかしながら、一部の定着集団では、これら2種の雑種化が進んでいることがmtDNAとAFLP分析の両面から示され、結果として大きな遺伝的多様性を保持していることが明らかになった。

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