| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
企画集会 T16-5
遺伝的多様性は、環境変動に対する生物の適応調節能を担保するうえで重要であるため、生物種(個体群)の“健全性”を測る指標とされている。しかしながら、集団遺伝学から予測されるこの一般理論を外来生物種に適用すると、理論と実状とのあいだに矛盾が生じている場合がある。つまり、外来種の多くは少ない個体数(創始者)に由来する場合があり、日本に侵入や分布拡大の過程において、あるいは、個体数が増加し生態系への侵害性が顕著になるまでの間、ビン首効果や遺伝的浮動といった中立的進化が外来種の適応進化に必要な遺伝的多様性を消失させる方向へと作用しやすい。それにもかかわらず、外来種の幾つかは、導入された場所で生き残り、個体数を増加させ、環境(選択圧)の異なる様々な場所へと拡散し、そして“侵略的”外来種となる。新たな環境への潜在的な適応能を限定する遺伝的多様性の消失という逆境をくぐり抜け、なぜ、外来種がこれほど様々な環境へと侵入できるかは“遺伝的矛盾(genetic paradox)”と呼ばれ、大きな謎となっている。
本講演では、侵略的外来種であるブルーギルを例に、遺伝的矛盾について議論したい。まず情報として、進化的に中立とされるミトコンドリアDNAを用いた分析から、日本で定着しているブルーギルは1960年にアイオワ州のミシシッピ川から採集されたわずか15個体に由来し、さらに、過去40年間における国内での分布拡大において、遺伝的多様性の多くを消失していることを示す。しかし、表現型レベルでの進化を検証するためにおこなったcommon garden 実験による量的遺伝解析からは、環境への表現型進化(適応進化)の証拠が得られたことを示す。“中立的進化”と“表現型進化”との比較から、外来種の定着成功を進化遺伝学的から考察する。