| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
企画集会 T18-1
植物の葉や群落表面の分光反射は、葉の量や色素などの生理・生態情報を反映しているため、生態学研究分野においても、非破壊で植生をモニタリングするツールのひとつとしてその活用が期待されている。例えば、人工衛星搭載の分光センサで得られる赤色や近赤外域の反射率から得られるNDVI(Normalized Difference Vegetation Index)画像などは古くから緑被率や群落の光吸収効率の評価に利用されてきた。近年では、人工衛星や航空機搭載、さらには可搬型の小型センサに至る分光計測機器の波長分解能や空間分解能は格段に向上しており、全球から個葉スケールまで、目的に応じて、詳細な分光解析が可能になりつつある。
著者はこれまで、衛星観測データの解析等で利用されている分光植生指標(特定波長の分光反射率から計算される指標値)に注目し、個葉から群落スケールの範囲で、光合成プロセスやフェノロジーの推定における指標の有効性について調査を行ってきた。Japanフラックスの観測サイトを中心に、可搬型分光センサや、群落上に設置した分光反射計測システムを用いて、個葉のガス交換速度、色素および群落のCO2フラックスと分光植生指標との関連を調査し、カラマツの個葉を対象にした実験観測では、指標PRI(Photochemical Reflectance Index)の利点/欠点を検証した。また、国内の針葉樹林での群落スケールの観測では、複数の指標の同時解析を行い、常緑樹林、落葉樹林での有効指標について報告した。今回の講演では、このような基礎研究で得られた情報と内外の研究例を紹介し、植生の生態研究、特に炭素循環研究における分光計測の利用法や可能性について議論したい。