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企画集会 T19-1
環孔材樹種と散孔材樹種に見られる道管の違いは,両者の水利用の仕方に違いがあることを示唆している.それでは両樹種群は機能的に異なる集団と言えるのだろうか.このことを検討するため,環孔材と散孔材の定義について先ず考えてみよう.
環孔材と散孔材の区別は,年輪に見られる道管径と配列の違いに基づいている.両者の区別には客観的な基準はなく,観察者の主観的な判断によっている.そのため,一つの樹種に対する判断が食い違う場合がある.しかし,環孔材と散孔材との違いが単なる生態的な適応ではなく,材構造の進化的な変化であるとすれば,種に固有の性質となる筈である.
さて,道管配列の違いとは別に,環孔材樹種と散孔材樹種には以下のような違いがある.環孔材樹種はほぼ全てが落葉で,辺材幅が狭く最外年輪だけが通水機能をもつとされる.また開葉前に形成層活動を開始するが,開葉は散孔材樹種よりも一般に遅い.落葉広葉樹林では遷移後期種に多い.これに対して,散孔材樹種には常緑と落葉があり,辺材幅が狭いものから広いものまであり,数年輪が通水機能を持つ.最大光合成速度は環孔材樹種の方が高い傾向が見られる.以上の点を考慮すると,解剖学的な定義にかえて機能的な定義を導入することで,環孔材樹種は散孔材樹種とを異なる樹種群として区別することができそうである.
環孔材樹種は温帯落葉樹林に集中してみられる.冬の成長休止期があるという環境条件がそのことに関係していると指摘されるが,同じように休止期があっても熱帯季節林にはほとんど出現しない.成長期のはじめに径の大きい孔圏道管を作り,当年の水輸送をそれに依存することは,不安定な環境下では賢明なやり方とは言えない.そのことが熱帯季節林に少ない原因なのかもしれない.