| 要旨トップ | | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨 |
企画集会 T20-3
1996年頃にキーワード”biodiveristy”が、世界的に認識されたのを機に、農業における生物多様性が話題になって久しい。我が国でも水田を中心とする農耕地で生物多様性の保全に関する理論や実践は、この十年間各界において行われてきた。本学会でも1997年の中池見問題に関するシンポジウムを契機に、農業と生物多様性を結ぶ議論が賑わいを見せている。生物多様性とは、元来は1960年代からの群集生態学における理論・手法とそれらを応用した保全の計画実践が出所であろう。その後1990年代に、それまでの群集の構造と機能に、遺伝子や生息地、景観の多様性が折り重なって「生物多様性」に展開したのだろう。我が国では昨今、里地の生物多様性保全に関わる話題は、環境省の第三次生物多様性国家戦略における第二の危機や、さらには農林水産省の生物多様性国家戦略策定によって、ますます政策導入と事業が行われていく状況にある。ではそこでは現場で、どのような群集構造と機能の回復・維持を目指すのだろうか?
今一度、群集生態学の理論に立ち返って科学的に吟味する時期に来ている。現行の里地の生物多様性保全を省みると、そのほとんどがRDB種のうちの特定種を選定し、地域的に、あるいは広域的にその個体群を存続あるいは回復させる事例が多い。これを強く否定するつもりはないが、事業関係者は「RDB種が、環境悪化で絶滅して行くのを防ぎ、生息環境整備できるなら、他の多様な種は保全・回復できるであろう」という論理を頭に描きがちである。群集生態学の基礎からすれば、Key-stone種かアンブレラ種、あるいは食物連鎖上位種といった理論の現場適用である。
ここでは、演者らが農村の生物多様性ホットスポットにおいて保全・再生に取り組んできた現場で、RDB種は保全されても普通種個体群が激減した事例を紹介し、真の農村生物多様性の再生について議論する。