| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(口頭発表) B2-04

有明海域におけるスミノエガキの集団遺伝構造解析

*田中智美,飯塚祐輔,野田圭太,荒西太士(島根大・汽水研)

イタボガキ科のスミノエガキCrassostrea ariakensisは,かつては瀬戸内海から有明海まで広く分布していたが,現在では有明海しか確認されておらず,さらに佐賀県では準絶滅危惧種にも指定されている.一方,有明海には,本種と形態識別が困難なマガキC. gigasやシカメガキC. sikameaが同所的に分布しているため,本種の詳細な生息実態は解明されていない.本研究では,有明海におけるスミノエガキの集団構造を解析し,その保全管理に資する知見の収集を目的とした.佐賀県鹿島川河口から2006年9月(2006年級群)と2008年9月(2008年級群)に採集した118個体のスミノエガキ様天然カキをミトコンドリアDNAの16S rRNA遺伝子部分領域を指標として分類した結果,スミノエガキ115個体が同定された.次いで,ミトコンドリアDNAのCOI遺伝子部分領域を指標として,2006年級群34個体および2008年級群38個体の合計72個体の集団構造を解析した.その結果,各年級群から10個ずつハプロタイプが得られ(ハプロタイプ多様度h 0.724〜0.745),その内の5個は両年級群の共通ハプロタイプであった.さらに,各年級群における塩基置換率頻度のプロフィールから,2006年級群は比較的長期に亘り安定的に維持された個体群であったが,2008年級群では近年の一斉放散が確認された.これらの結果から,有明海における2006年級群以降のスミノエガキは,比較的高い遺伝的多様性を保持しているが,2006〜2008年の間には特定のハプロタイプ個体の積極的な再生産への加入が示唆された.


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