| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(口頭発表) E1-01

モニタリングサイト1000里地調査 市民による里地生態系の総合評価

*高川晋一(日本自然保護協会),福田真由子(同左),廣瀬光子(同左),開発法子(同左)

日本の国土の4割を占める里やま(里山、里地)は、多くの絶滅危惧種が集中し、生物多様性の保全上重要な環境である。しかし面積が広大な上、多くが私有地で人間活動の影響を頻繁に受けることから、その生物多様性の現状・変化の正確な把握が困難なことが課題となっていた。そこで演者らは、全国で活動する市民団体が主体となり、植物や鳥類、水環境といった9項目にわたる総合的なモニタリング調査を実施する手法・体制を確立し、その普及に努めてきた。2005年からは開発したノウハウを用いて環境省の「モニタリングサイト1000里地調査」としても全国的な調査を展開している。

これまでの調査の結果、2007年度までに250人以上が参加し、在来植物約1370種、鳥類117種、チョウ類81種を確認できた。また、複数の調査地でアライグマの侵入が初めて確認できた。

次に、これらの調査データを用いた生物多様性の評価手法を検討した。評価にあたっては、植物・鳥類といった従来の調査項目ごとの評価ではなく、「種の多様性」「個体群サイズ」といった評価軸を設け、さらにその衰退に大きく関わる要因を整理し、衰退要因の影響を受けやすい「撹乱依存種の動向」「連続性の高い環境への依存種の動向」といった評価軸も定め、生物多様性の変化傾向を既存の調査データとも合わせて評価軸にそって解析した。

その結果、明るい草地・林床に生育する植物や水生動植物の衰退が確認され、森林管理の停止や水田の耕作放棄などによる影響が示唆された。また、9項目のデータから評価軸に沿った解析に使用可能な約20の指標変数が整理された。

適切な評価軸と指標変数の設定により、今後全国198の調査地から収集される年間数十万件の調査データを迅速に集計し、衰退要因との関連がより明瞭な形での総合的な評価が可能となるものと期待される。


日本生態学会