| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(口頭発表) F2-04

コノハクラゲの遺伝的分化と分布拡大プロセス

*小林亜玲(京大・院・理),五箇公一(国環研),久保田信(京大・瀬戸臨海)

コノハクラゲは、ポリプ世代において、ムラサキイガイ等の二枚貝外套腔で付着生活を送っている海産クラゲの一種である。ポリプは、1977年から1998年までの21年間、太平洋側および瀬戸内海で確認されているものの、本州日本海沿岸では全く出現がみられなかった。ところが、近年、島根県から新潟県にかけての日本海沿岸域で分布が確認されるようになった。本種の分布変遷の解明は、生物地理学的にも興味深いだけでなく、宿主である水産有用二枚貝類の資源保護の観点からも重要なテーマである。

本研究では、形態多型の同定、およびmtDNA遺伝子に基づく個体群構造解析により、分布拡大プロセスを探るとともに、本種の地理的多型が側所分布する一つの制限要因とされる水温耐性の違いを明らかにすることを目的とした。

飼育実験および遺伝子解析の結果から、日本海側の新規発見個体群は、北海道の個体群から派生し、海流に逆らって分布拡大した事が示唆された。内湾性の本種が短期間に海流に逆らって長距離移動できた主要因として、船体付着などによる人為的輸送が関わっている可能性が高いと考えられる。

本州日本海側のコノハクラゲは、約1〜2万年前の最終氷期による低水温などのために絶滅したと推察されている。一方、対馬では最終氷期を終えてから現在に至るまで個体群が生残していたと考えられるが、これまでの分布調査から、対馬個体群は北部へ分布拡大できなかったと推測されている。その理由として、これらの集団は低水温耐性を獲得していないために生息域が制限され、北部へ分布拡大できなかったものと本実験で証明された。一方、移入個体群は、低水温耐性を獲得している事が明らかになったため、近年人為的に運ばれてきた北日本個体群が、本州日本海側で定着に成功したものと推定できる。


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