| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(口頭発表) H1-07

アゲハチョウはたよれるやつか? −訪花昆虫の選択的排除から送粉貢献度を推定する−

*坂本亮太,川窪伸光(岐阜大学・応用生物)

野外で各昆虫種の送粉効果を明らかにすることは容易でない。多種多様な昆虫が送粉を行う野外において、柱頭上の花粉それぞれを、どの昆虫によって運ばれたか区別することは非常に難しい。これまでの送粉生態学研究のほとんどは、特定植物とその全訪花昆虫相の関係を包括的に扱うか、特定植物のみで送粉する昆虫の諸特性の解析であった。

本研究は、アゲハチョウ属昆虫のみが通過飛来できないネットを利用することで、同属の送粉効果を、多様な昆虫に送粉を依存するクサギにおいて、明らかにすることを試みた。網目10cm四方のネットで植物郡落を覆う(約4m四方)という、新しい発想に基づいた実験法を開発した。ネット内外でのクサギの結実差異から、アゲハチョウ属の貢献度を推定した。

その結果、アゲハチョウはクサギにとって有効な送粉者であることが判明した。アゲハチョウが訪花しないと、クサギ着果率(果実数/花数)と結実率(種子数/胚珠数)が有意に低下した(P<0.001)。交配実験で得られた結果と合わせ、クサギの結実低下を、至近要因である「資源制限」「花粉制限」と共に、「アゲハチョウ訪花の選択的制限」の複合としてとらえ、アゲハチョウ送粉効果を具体的に推定することができた。

また、自家不和合性のクサギにとって重要である外交配花粉の授粉量において、アゲハチョウは、他訪花昆虫とほぼ同等の能力があると推定できた。アゲハチョウ訪花の有無に関わらず、クサギ充実率(種子数/果実数)に有意な差異はみられなかった(P=0.12)。ところが、アゲハチョウ属の花序間移動距離(約94cm)は、他の主たる送粉者であるホシホウジャク(約54cm)に比べ有意に長く(P<0.001)、アゲハチョウが外交配を促進させると予想されたので、この結果は意外なものであった。アゲハチョウ属昆虫は、他の訪花昆虫よりも、クサギ花粉の運搬量が少ないことが考えられた。


日本生態学会