| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(口頭発表) K1-03

「ヒグマの人に対する反応を考慮した順応的管理方法」

太田海香(海洋大・海洋環境)

近年、北海道におけるヒグマの捕獲数が増加している。これは個体数が増加した事を単純に反映したものでなく、農作物などを目的として人里に姿を現す個体が増えたことが原因と言われている。つまり農業・人身被害といった人との軋轢を起こす個体が増加したという事である。現在の北海道では軋轢を起こす個体を区別して捕獲するという事は行われていない。そこで軋轢を起こす個体(この個体をウェンカムイとする)と軋轢を起こさない個体(この個体をキムンカムイとする)を分けた管理モデルを考え、2種類に区別した順応的管理方法が有用である事を示す必要がある。本研究はヒグマを2種類に分けて考えた管理方法を提案する事を目的とする。

本研究では管理モデルを作成し、生け捕り率と捕獲率という2つのパラメータについてシナリオを考えた。これに基づき1000回のモンテカルロシミュレーションを行い、100年後までの個体数の変動を予測した。さらに各シナリオにおいて以下の2つの事象が起こる確率を求めた。一つは全個体数(キムンカムイ+ウェンカムイ)が250頭以下かつウェンカムイ3割以上になる確率、もう一つはウェンカムイが90頭以上になる確率である。この2つの事象が起こる、つまり管理に失敗するリスクを求めた。その結果、捕獲率や生け捕り率を定数とした場合よりも、このパラメータを個体数に応じて変動させる場合の方がリスクが低かった。これらの結果から捕獲率と生け捕り率をある値に固定した管理をするのではなく、個体数に応じて変動させる順応的管理を行う事がウェンカムイの減少とキムンカムイの増加につながることが示唆された。


日本生態学会