| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(口頭発表) M2-05

オオコオイムシは本当に自分の子を背負っているのか?

*稲田勝重,森野浩(茨城大・理)

コオイムシ科のオオコオイムシ (Appasus major) は、メスがオスの背に卵を産みつけ、孵化するまでオスが卵を保護するという特徴的な習性を持つ。1個体のオスは、複数のメスが産み付けた卵を同時に背負うが、卵を背負う行動はオスには大きな負担となる。もし自身の子でない卵を背負った場合、オスの適応度は大きく下がるはずである。Smith (1979) は、同科のAbedus herbertiを用いて、室内で行動観察と表現型の分析を行い、98% (245/250) の子が背負ったオス自身の子であると推定した。オオコオイムシのメスは、産卵の際に1回交尾してオスに1卵を産みつけるという手順を繰り返す。この習性は、父性が確実な卵を保護することでオス親の適応度を高めるために進化したオスの繁殖戦略と考えられてきた。

しかし、Ichikawa (1989) は、交尾していないオスに卵を産みつけるメスが稀にいるのを観察し、1卵ごとの交尾がオオコオイムシのメスにとっては必須ではないと考えた。また、A. herbertiにおいては、メスの貯精嚢内の精子が約4ヵ月間受精能力を有していることが分かっている (Smith 1979) 。

本研究では、野外のオオコオイムシが、どの程度非血縁卵を背負っているのかを明らかにする。親子関係の解析は、マイクロサテライト分析を採用した。マイクロサテライト分析を行うために、オオコオイムシのマイクロサテライト領域を増幅させるプライマーを開発した。そのプライマーを用いて、9有卵個体の568卵を分析した。その結果、一部の個体が非血縁卵を多数保持していることが明らかになった。本発表では、野外で採取した有卵オス個体の卵がどの程度卵を背負った個体と非血縁であったかを示し、両親の適応度の観点から議論したい。


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