| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-031

東シベリアの湿潤化に伴うカラマツ群落の変化

*飯島慈裕(地球環境観測研究センター),矢吹裕伯(地球環境観測研究センター),大畑哲夫(地球環境観測研究センター)

東シベリア・レナ川中流域では、2004年以降、冬季の積雪量と夏季の降水量が急激に増加しており、それに対応して活動層内の土壌水分の増加と地温上昇に伴う活動層厚の増大(永久凍土の融解)の同時的な進行が観測された。東シベリアは連続的永久凍土の分布中心であり、この地域はカラマツ(Larix gmeliniiまたはcajanderi)を主とする北方林(タイガ)が大部分を占める。北方林での光合成や蒸発散などの生物物理過程は、活動層の凍結・融解状態と深い関係がある。東シベリアの永久凍土層は豊富な水分を含んだ土壌が凍結しており,永久凍土は活動層に対して止水面となる不透水層の役割を果たしている。従来は,春の消雪以降の融解に伴い,活動層内には土壌水分が保たれ,それが植物にとって重要な水資源となり、夏季降水量が200mm程度にも関わらず森林の成立が可能な水文気候環境が維持されていた。しかし、2004年以降は冬季の積雪量の増加に伴う春の融雪水の増加に加えて、夏〜秋の降水も大幅に増加し、活動層内に過剰な土壌水分が蓄えられる環境に変化した。特に、谷地形内や、永久凍土融解に伴う陥没地形(アラス)内では、潅水や湖沼面積の増加などの顕著な湿潤環境となり、逆に森林の生長が阻害される状況が現れ始めた。カラマツ林での樹液流速の測定によると、飽和した土壌水分上の個体では夏季(7月)の樹液流速が2008年は2006年の3分の1以下に減少した。また、アラスからの湖沼の拡大によって潅水した森林では100m程度の範囲で、枯死や葉の生長阻害が現れている。このように連続的永久凍土地帯で進行する過度の湿潤化は、北方林の生育に対して重大な影響を与える気候変化となっている可能性が示唆される。


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