| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-037

ヤクスギ林の階層構造と群集維持メカニズムに及ぼす台風の影響

*高嶋敦史(琉球大・農), 久米篤, 吉田茂二郎(九州大・農), 村上拓彦(新潟大・農), 加治佐剛, 溝上展也(九州大・農)

屋久島には,最大瞬間風速55m/sを超える台風が頻繁に襲来する。しかしながら,その標高800〜1,800mにかけて生育するヤクスギは,致命的なダメージを受けることなく1,000年以上も生存する。そこで,台風による強風がヤクスギ林に生育するスギの胸高直径(DBH)−樹高アロメトリーにどのように表現されているか,解析をおこなった。5箇所の試験地で,拡張相対成長式と不連続区分相対成長式の2つのアロメトリー式を用い,あてはまりのよさを比較した。すると,すべての試験地で不連続区分相対成長式のほうのあてはまりがよくなった。スギは,小径木と大径木の間でDBH−樹高アロメトリーが不連続で,大径木の梢端は強風により失われていることが確認された。このようにして,ヤクスギは強風による風圧を軽減し,致命的な幹折れや根返りをまぬがれていた。しかしながら,それでもスギの樹冠は林冠の最上部まで達していた。一方,スギの下に樹冠を広げるヤマグルマやサカキに同様の解析をおこなうと,多くの試験地で連続したDBH−樹高アロメトリーを示した。ヤクスギ林でスギの下に樹冠を広げる広葉樹は,スギによって強風から守られている可能性が示唆された。また,スギを含めた優占種6種(スギ,ヤマグルマ,サカキ,シキミ,ハイノキ,サクラツツジ)は,すべての試験地で一様の階層構造を保っており,ヤクスギ林では,発達した階層構造が安定的に維持されていることが判明した。このような階層構造は,優占種間の垂直方向のニッチ分離を示しており,林内空間の有効利用とそれに伴う胸高断面積密度の増加を実現していると考えられた。


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