| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-039

長野県川上村におけるイラモミ林の構造と立地環境

*清野達之,上治雄介,井波明宏(筑波大・生命環境)

イラモミはマツ科トウヒ属の樹木で,本州中部から関東山地を中心に分布している.まとまった群落が少なく,自生地が限定されているため,イラモミ林の成立過程や森林構造の詳細についての情報は限られている.本研究では,長野県南佐久郡川上村の冷温帯に成立しているイラモミ林の構造と立地環境を調査し,その成立過程の解明を明らかにすることを目的とした.調査は長野県南佐久郡川上村にある筑波大学八ケ岳・川上演習林の標高約1700 mの尾根斜面に1.51 haのプロットを設置して,胸高直径5 cm以上を対象に毎木調査を行なった.さらに胸高直径5 cm 以下のイラモミの実生・稚樹の根際直径と樹高を測定した.また,プロット内で地形測量を行ない,その情報も記録した.

プロット内には胸高直径5 cm以上の樹種が40種出現し,ミズナラが胸高断面積合計の36%を締め,最も優占していた.次いでイラモミが18%だった.最大胸高直径ではイラモミが最も大きく,96 cmであった.イラモミのサイズ構造は逆J字型を示した.ミズナラはL字型を示し,その多くが萌芽由来の幹であった.他にイラモミと混交している樹種は主に落葉広葉樹で,サイズ構造は種間で比較的似た傾向を示した.イラモミ成木の分布とプロット内の標高や微地形との関係を解析したが,特別な関係はみられなかった.イラモミの実生・稚樹は種子散布源と推察される成木の周辺で多くみられた.プロット周辺の森林で約40年前に大規模な人為攪乱があったことが記録されている.イラモミのサイズ構造や分布状況から推察すると,過去の人為攪乱の影響を逃れた結果,現段階では他の樹種と混交する形で生育していると判断した.一方,イラモミ以外の樹種では過去の人為攪乱の影響を強く受けていることが示唆され,現在の森林構造は過去に受けた攪乱の影響の違いによるものと推察された.


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