| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨 |
一般講演(ポスター発表) PA1-040
地域フロラの決定には、局地的な環境フィルター (光、土壌等)の他に、移動、種分化、遺存など、より大きな時空間スケールで作用する過程が関わっているとされている。地理的な分布範囲を等しくする種群は、類似した過程を経て地域フロラを構成するにいたった可能性が高いとされるが、礫地や尾根など特殊環境を好んで生育する遺存固有的な温帯性針葉樹などのように、局地的な環境に対する反応の程度も類似していることを示唆する現象は枚挙に暇がない。
本発表では、八ヶ岳山麓(標高1250〜1550m)のミズナラを主体とした森林(そのほとんどが二次林である)を対象に、構成種の地理的な分布と局地的な分布との関連性を検証した結果を報告する。この地域は、植物地理学的に興味深い地域であることが指摘されており、大陸の北部と北日本を中心に分布するヤエガワカンバ、アオナシ、カラコギカエデといった種群や、西南日本を中心に分布するサワラ、アサノハカエデといった種群、およびイボタヒョウタンボク(フォッサマグナ要素のひとつ)のような本州中部に限って見られる種群などが地域フロラを構成している。
森林出現種の地理的な分布範囲を既存の資料に基づいて明らかにするとともに、火山麓にみられる5つの立地タイプ(黒ボクに覆われた凹地と凸地、急斜面地、岩角地、砂質土壌に覆われた谷底)に対する選好性をX2乗検定によって調べたところ、地理的な分布パタ−ンが似通った種群は類似した局地的環境を選好して分布しているという結果が得られた。具体的には、大陸にも分布する分布範囲の広い種群は、調査地内における分布幅も広く、特に黒ボクに覆われた凹地のような水はけの悪い立地を好む傾向が見られた。逆に、日本固有種のような地理的な分布範囲が狭い種群は、急斜面地、岩角地、砂質土壌に覆われた谷底のような水はけのよい立地を好んで分布する傾向が見られた。