| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-048

アシは乾いた土壌からは十分な栄養塩吸収ができない

由良 浩(千葉県立中央博物館)

湿地では大繁茂をするアシが、なぜ水はけのいい土地では全く自生することができないのか?その理由を演者は追求している。ススキが順調に育つことのできる水はけのいい土地に、アシの種子を播くと、発芽はするものの成長は悪く死亡率も高い。ところがこの現象を通常のポットで再現させようとしてもうまくいかない。すなわち、底に穴のある普通のポットに、ススキにとっては良好な成長の見込める土を入れてススキとアシを同様に潅水しながら育てると、最終的な乾量はアシもススキも同程度になってしまい、大きな差は生じない。

そこで演者が開発したのが、2003年の本学会で発表したポット内の土と地面とを接触させて栽培するHydroearth methodである。ポットの穴を地面と接触させると、ポット内の土壌水分が「ほどよく」抜ける。このような土壌含水量の低い状態でアシを栽培すると、同じ土壌でもアシの成長速度は通常の栽培時より3〜4分の1程度と、顕著に悪くなる。ススキの成長はさほど影響を受けないので、結果的にススキとアシに大きな差が生じる。

今回は、土壌の栄養塩がどの程度影響を及ぼしているのか?といったことを検証する実験を行った。すなわち、Hydroearth methodで栽培しているアシのポットに栄養塩溶液を定期的に注入した場合と純水のみを注入した場合の成長を比較した。すると、アシの最終的な乾量は、栄養塩を注入すると、かなり回復した。

低い土壌含水量のもとで栽培したアシは、高い含水量のアシに比べて成長がかなり悪いが、栄養塩を注入することにより、成長の悪さを軽減することができた。アシの成長は単に土壌の含水量にのみ制御されるのではなく、栄養塩濃度も深く関わっているようである。アシは湿っている土壌でないと土壌中の栄養塩を利用できず、乾いている土壌では土壌中の栄養塩濃度が相当高くないと順調な成長が見込めないようである。


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