| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-063

葉の蒸散速度はどのように決まるのか ー気孔開口と葉内構造から考えるー

*澤上航一郎, 舘野正樹(東大・院・理・日光植物園)

殆どの陸上植物は貴重な水分を無駄に放出しないため、表皮を防水性の高いクチクラで覆い、二酸化炭素の吸収を気孔という開閉できる小さな穴からのみ行う。気孔のサイズおよび密度は種によってある程度決まっているが、葉の発生過程での環境によって調節される。蒸散速度は光合成と異なり単純な物理的拡散により決定されるため、蒸散は気孔の密度と気孔の開閉の2つの機構によってぼぼ決定されると考えられていた。昨年の研究では多種にわたる植物の気孔サイズ・密度とガス交換の関係を調査したが、その結果、気孔の密度・サイズと最大蒸散速度との相関は意外にも低かった。これにより、気孔の開閉だけでなく葉内の構造も蒸散速度に影響を与えていると予想した。本研究では、ツユクサ (Commelina communis) を用い、ガス交換を調節する葉の表皮を剥離したときの光合成速度と蒸散速度の挙動を調査した。葉の両側の表皮を同時に剥離する事はできなかったが、向軸側または背軸側の表皮のみを広範囲 (2 × 2 cm以上) に剥離する事ができた。表皮の剥離後、葉の急速な萎れを予想していたが、根が付いた状態または水切りを行った状態では葉が萎れる事は無く、室内で半日以上ガス交換を行える状態を保っていた。このことから、陸上植物は湿潤環境においてクチクラおよび気孔による水分調節が無くても生存に十分な水分を輸送できる能力を持つことが示唆される。最大光合成速度、最大蒸散速度を無傷葉、剥離葉で比較すると、向軸側表皮を剥離した葉は無傷葉と比較して110%の光合成速度、106%の蒸散速度を示した。背軸側表皮を剥離した葉は、87%の光合成速度と99%の蒸散速度を示した。この結果は、良好な光環境で育成された植物において、活発なガス交換時に表皮は殆ど防水膜として機能しておらず、葉肉細胞からの蒸発が蒸散を決定している事を示唆する。


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