| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-089

釧路湿原南部における主要草本種の養分利用特性

*中村隆俊(東京農大・生物産業), 植村滋(北大・FSC), 矢部和夫(札幌市立大・デザイン), 山田浩之(北大・農)

一般に、湿原をはじめとする泥炭地に生育する植物にとって、窒素は最も不足しがちな物質のひとつである。従って、乏しい窒素資源に対する植物の様々な適応戦略の違いは、湿原生態系における植生分布メカニズムの要となっていると考えられている。すなわち、立地の窒素環境に対する窒素の同化活性や、同化された窒素の利用様式(窒素利用効率・窒素生産性・窒素滞留時間)における違いは、湿原植物の分布特性と密接に関わっていると思われる。

湿原の主な植生景観は、ヨシや大型のスゲが優占するフェンと、ミズゴケが地表面を覆い矮小なスゲ等が優占するボッグに大別される。そうした植生景観を構成する主要種の窒素生産性や窒素滞留時間は、フェンとボッグで大きく異なることが明らかにされている。しかし、窒素肥沃度の総合的指標である土壌水の溶存態全窒素濃度については、フェンとボッグで大きな違いが認められないことが多い。このような関係の背景には、フェンとボッグにおける窒素の存在形(NH4+, NO3-, アミノ酸)の違いや、それらの窒素形態に対する同化活性の種間差等が関わっている可能性がある。本研究では、北海道東部に分布するフェンとボッグにおいて、両植生景観を特徴付ける3種のスゲ(ヤラメスゲ、ムジナスゲ、ホロムイスゲ)に着目し、立地の窒素環境と各種の窒素利用様式および硝酸態窒素同化活性(NRA)・アンモニア態窒素同化活性(GSA)について調べた。

3種ともに、立地環境にかかわらずNRAはGSAよりも極めて低い値となった(GSAの1/30〜1/100程度)。単位生重あたりのGSAは、ボッグに分布するホロムイスゲで最も高く、フェンに分布するヤラメスゲで最も低い値を示した。本講演では、これらの傾向に対する窒素環境や窒素利用様式との関係について考察する。


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