| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-191

暗渠排水水田における「江」の創出は生物群集を豊かにするか?

*村上比奈子(新潟大・農),石間妙子,関島恒夫(新潟大・自然科学)

1980年代以降、わが国の水田は、圃場整備による暗渠排水の導入とそれによる乾田化が急速に進み、水田生物多様性は著しく低下した。そのような背景の中、昨今、冬水たんぼや環境保全型農業など水田生態系の再生に関わる手法が積極的に導入されつつある。われわれの研究においても常時湛水可能な江と呼ばれる小規模な土水路が、乾田時の生物の逃避場所として重要な役割を果たしていることが次第に明らかとなってきた。そこで本研究では、暗渠排水システムが導入された慣行田において実験的に江を創出することにより、通年湛水を維持するための課題を明らかにするともに、水田生物多様性に対する江の創出効果を評価した。

江の創出は2007年4月に行い、平均20aの慣行田7枚に対して実施した。その際、4ヶ所の江に対しては、水の浸透を防ぐ素材のシートを敷いた。調査は2008年5月〜11月に水田内の水管理に合わせ4回実施した。水系生態系の機能評価として、指標生物に絶滅危惧種のメダカを選定し、湛水後に色素マーカーを付けそれぞれの江に30匹ずつ放逐した。調査は、水田生態系における全栄養段階の生物(魚類、両生類、昆虫、動植物プランクトン)を定量するとともに、江の物理環境として水位、水温、DO、EC、全窒素・全リン量を計測した。加えて、湛水状態に対するシート設置の効果を評価するため、江の水位を週2回の頻度で計測した。その結果、調査期間をとおし、シートの有無に関係なく水は20cm程度に保たれていたが、用水の供給停止後から稲刈りまでの期間となる9月に、1ヶ所を除く全ての江で短期間(1〜2日)の落水が生じた。メダカを含め多くの生物種において落水の影響が見られたものの、総じて水生生物の生息場所としての江の有効性は実証された。


日本生態学会