| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-198

アカマツ-コナラ林におけるアズマネザサ被度に対する植生管理の効果

*阿部聖哉,梨本真(電中研・環境)

松枯れなどにより衰退しつつあるアカマツ林において,自然の樹種転換により森林を維持していくためには,遷移の後続種の稚樹を育成する必要がある.演者らは群馬県の赤城山麓において,林床管理を停止し,コナラ稚樹の定着を促進するための実験を行なっているが,アズマネザサの被度が稚樹の主要な定着阻害要因であることが明らかとなった.そこで,林床管理によるアズマネザサ被度の抑止効果を推定するために,モニタリングデータから求めた推移確率行列によるマルコフ解析を行った.

赤城山麓のアカマツ-コナラ林において,下草刈り停止実験区と下草刈り継続区を設置し, 2005年から4年間,木本稚樹の発生状況と,林床植生の被度に関するモニタリング調査を行った.今回は,緩傾斜地のアカマツ優占林分150の小方形区を対象に,各年度間の推移行列を作成し,その平均から下草刈り停止と継続それぞれの推移確率行列を作成した.

推移確率行列を用いたシミュレーションの結果,アズマネザサ被度の予測頻度分布は実際と良く一致した.コナラ稚樹の生存率から,アズマネザサの被度20%以下をコナラ定着適地とし,推移確率行列をもとに下草刈りの頻度を変えた場合のシミュレーションを行なった.その結果,管理を停止してから10年経過後にはコナラの定着適地が10%以下になるが,2〜3年おきの下草刈りでは20〜50%の割合で定着適地が維持されることが推察された.頻繁な下草刈りは多大なコストを要し,稚樹を死亡させるリスクが高い.2〜3年おきの下草刈りなら,ある程度アズマネザサを抑えながら稚樹の定着を誘導することができると予測された.

モニタリングデータにもとづいて構築した推移確率行列は,林床植生などの管理指針の策定に有効なツールとなると考えられた.


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