| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-425

ケヤキ天然集団の更新過程における遺伝的動態:成木,実生,稚幼樹段階における遺伝変異

*岩泉正和,高橋誠,武津英太郎,矢野慶介,宮本尚子,生方正俊(森林総研林木育種センター)

ケヤキは有用広葉樹として需要が高く,林木遺伝資源の保全が重要視されているが,保全に重要な,天然集団内の遺伝的動態についてはほとんど知られていない。本研究では,ケヤキ集団の遺伝的動態の詳細を明らかにするため,SSRマーカーを用いて,成木,実生,稚幼樹の各生育段階での遺伝的構造を解析し,生育段階間の推移等について考察した。

2006年,福島県昭和村のケヤキ天然集団に調査地(約3.8ha)を設定し,調査地内に生育するDBH5cm以上の成木個体(63個体)を対象に個体位置を測量した。また,調査地内に更新調査区(40×50m)を設定し,その内部に10m間隔で格子状に20箇所の実生調査区(0.5×2.0m)を設定した。2年間にわたり当年生実生の消長を調査し,DNA分析試料として実生調査区の近傍に生育する個体を採取した(2006年:132個体,2007年:66個体)。苗高50cm未満の稚樹(266個体)とそれ以上の幼樹(75個体)については,更新調査区内の全個体を対象に個体位置を調査した。各生育段階の調査個体を対象に8SSR遺伝子座を用いてDNA分析を行い,各段階での遺伝的構造をSPAGeDi 1.2(Hardy & Vekemans 2002)により解析した。

当年生実生の発生は2006年で多く(33.8個体/m2),2007年は少なかった(2.9個体/m2)。遺伝的構造を解析した結果,全ての生育段階で有意な空間的自己相関が検出された。また,空間遺伝構造の指標であるSpは,2006年の実生,稚樹及び成木において有意な正の値を示した。

以上のことから,当ケヤキ集団内には遺伝的構造が成木段階にまで強く存在していることが明らかになった。今後は親子解析等により,集団内外での遺伝子流動等の把握を進める考えである。


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