| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-475

好き嫌いによる種分化は何度も生じた −極端な食草変更が導く適応放散−

*松林圭(北大・院理・自然史),Sih Kahono (LIPI),片倉晴雄(北大・院理・自然史)

異なる環境への適応は、生物が生態的多様化を伴って急速に種を増加させる“適応放散”の際に大きな役割を担っている。しかし、一般的な適応放散の例においては、どのような形質がどうやって生態的多様化と種の増加をもたらしたかがはっきりしていない場合が多い。

植物食のテントウムシHenosepilachna diekeiでは、インドネシアのジャワ島西部において、キク科のMikania micranthaとシソ科のLeucas lavandulifoliaにそれぞれ特化した集団(host race)が同所的に生息している。このhost raceでは、極端な食性の分化のみが隔離障壁となっており、race間の遺伝子流動はこの生態的分化によってほぼ完全に遮断されている。一方、同国のスラゥエシ島南部においても、前述のM. micranthaとシソ科のColeus spp.を利用するhost raceが同所的に生息していることが知られている。

これら2地域でそれぞれ2つの食草に分化したテントウ集団を用いて、生態的分化(食草選好性・食草利用能力)、遺伝的分化(mtDNA, 核ITS領域、AFLP)、および形態的分化を調べた。その結果、これら全てのhost raceで、自食草しか利用できないという極端な生態的分化が観察された。一方、同じ島で食草が異なるhost race間よりも、島が異なるhost race間で、より大きな遺伝的・形態的分化が認められた。これは、キク科とシソ科への食性の分化が2つの島で独立に生じたこと、そして極端な食性の分化が両方のケースにおいて隔離障壁となっている可能性を示している。以上から、このテントウではインドネシアの島々において極端な食草変更を繰り返すことで、適応放散を遂げている最中であるということが推測される。


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