| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-486

現在進行形の適応的種形成:琵琶湖固有魚類におけるケーススタディ

*小宮竹史,藤田彩理,渡辺勝敏(京都大・院理・動物生態)

環境変動がもたらす多様化選択は,集団の分化ひいては種形成を加速させる.この「適応的種形成」は,近年の進化生態学におけるホットなトピックであるが,実証例が乏しい.今回われわれは,適応的種形成の初期に想定される,種内多型の進化過程にあると考えられる系を発見したので,ここに報告する.

琵琶湖に固有のコイ科ヒガイ類(ビワヒガイ,アブラヒガイ)には,採餌適応に関連して,底質環境の異なる局所個体群間で形態・生態的な分化がみられる.琵琶湖の北部および中東部に広がる岩礁帯の個体群は,一般的なハビタットである砂礫帯の個体群に比べて,ついばみ型の採餌に形態的に適応している.mtDNA塩基配列を用いた解析からは,これらの局所個体群間に遺伝的集団構造は認められないものの,推定された集団形成の起源(2-20万年前)は,同時期に琵琶湖で起こった劇的な環境変動,すなわち地殻変動によって急速に深く大きくなり,岩礁帯という特異なハビタットが生じたこととの関係を示唆する.以上の背景から,われわれは,ヒガイ類が急速な適応的種形成の途上にあると考えた.そこで,集団形成史をより詳細に明らかにするために,高感度マーカーであるマイクロサテライトを用いて集団構造を再検討し,コアレセンス理論にもとづいて過去の遺伝子流動を推定した.

解析の結果,琵琶湖ヒガイ類に遺伝的集団構造は見いだされなかった.種間においてさえ遺伝的分化が認められなかった.いっぽう,個体群間の遺伝子流動の歴史と共通祖先までのコアレセンス時間から,砂礫帯の個体群をソースとして,アブラヒガイを含む岩礁帯の個体群が形成されたことが示された.これらの結果から,ビワヒガイの祖先が琵琶湖で個体群を拡大させた後に,新たな環境である岩礁帯に侵出・定着し,アブラヒガイが派生したという結論を得た.


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