| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-496

ヤスデ類の複雑な交尾器形態進化

*田辺 力(熊本大・教育), 曽田貞滋(京大院・理)

ババヤスデ属とその近縁属について、集団を解析単位とし、形態及び系統情報をもとに交尾器の形態進化メカニズムの解明を行っている。分子系統推定から、ババ群(クレード)とアマビコ群、ババ群内におけるミドリババ群とキシャ群の2つの姉妹群関係が得られ、これら姉妹群間における形態比較をベースに解析を行った。その結果、ババ群では2段階の顕著な交尾器形態進化が生じたと推定された。1つはババ群におけるもので、雌雄交尾器の構造的変化と相対サイズの増大である。構造的変化は、雌交尾器の生殖口(精子の受け取り口)がそれに付随するジャバラにより体内へと引っ込み、雄交尾器がそれを追うように細長く変化する形で生じている。ヤスデ類は多回交尾をすることから、この「雌が逃げ、雄が追う」形は、雌が交尾頻度を下げようとし、雄は逆に上げようとする性的軍拡競走の現れであり、結果として雌雄相対サイズの増大をもたらしたものと推察される。姉妹関係にあるアマビコ群では、雌交尾器の生殖口は体内に引っ込むことはなく、雄交尾器も短く、雌雄交尾器相対サイズも小さい。次の段階はババ群内のミドリババ群における雌雄交尾器アロメトリーのポジティブ化である(log体サイズが大きい集団ほどlog交尾器サイズはより大きい)。姉妹関係にあるキシャ群及び上位のババ群、アマビコ群ではアイソメトリックである(log体サイズとlog交尾器サイズは集団間で等率に変化する)。ミドリババ群は姉妹関係にあるキシャ群に比べて有意に雌雄体サイズが大きいことから、体サイズが大きいほど交尾器へより多く投資することが可能になるのかも知れない。このように、ババ群においては、雌雄交尾器の構造的変化を伴う性的軍拡競走が生じ、そのものとで、さらに体サイズ進化が交尾器サイズ進化に影響を与えているものと考えられる。


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