| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-533

マイクロサテライト分析に基づくカワヤツメ回遊型集団間の遺伝子流動

*山崎裕治・長井輝美(富大院理工)・横山良太・後藤晃(北大FSセ)

無顎類カワヤツメLethenteron japonicumは,一般に寄生性・遡河回遊型の生活様式を持ち,日本列島北部を含むユーラシア大陸北東部および北アメリカ大陸北西部の河川とその周辺海域に生息する.しかしこれまで,本種の回遊・分散パタンは明らかにされていない.そこで本研究では,分布域の広い範囲から採集された13地域集団を対象にマイクロサテライトDNA分析を行い,地域集団間における遺伝子流動パタンを異なる時間スケールにおいて推定した.FST解析の結果,いずれの地域集団間においても顕著な遺伝的差異は認められなかった(FST=0.00-0.16).加えて,ベイズ法に基づく集団構造の推定を行った結果,解析した全ての地域集団は単一のクラスターに含まれた.これらのことから,本種は分布域全体で1つの任意交配集団を構成していることが示唆された.また,FST値を遺伝的距離に用いたMantel's testを行った結果,地理的距離とは関係のない遺伝子流動パタンが示された.次に,過去から現在までに生じた遺伝子流動をコアレセンス理論に基づき推定した結果,いずれの地域集団間においてもほぼ均質な遺伝子流動が認められた.一方,現在の遺伝子流動をベイズ推定した結果,地域集団間において方向性のある遺伝子流動が認められ,分布域北部に位置する地域集団が主な供給源となっていることが示された.以上の結果から,現在の数世代間レベルで見ると,海洋生活期にカワヤツメが寄生する宿主(サケ科などの大型魚類)の分散パタンなどの影響を受けた方向性のある遺伝子流動が認められるが,長い時間スケールにおいては,分布域全体に渡って自由かつ広範囲な遺伝子流動が生じていると推察される.


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