| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-552

社会性アブラムシの労働分業:行動の可塑性を調節するメカニズム

*奥村友佳子,植松圭吾(東大・総合文化),沓掛磨也子,深津武馬(産総研),柴尾晴信,嶋田正和(東大・総合文化)

社会性アブラムシには、繁殖に専念する生殖階級と、利他行動を示す不妊の兵隊階級が存在する。両者は単為生殖によって産まれるため、遺伝的にはクローンであるにも関わらず、異なった行動や形態を示す。それゆえ、社会性アブラムシは行動の可塑性や表現型多型のメカニズムを解明するのに適している。

ハクウンボクハナフシアブラムシTuberaphis styraciの兵隊階級は、若いうちは巣内で掃除をおこない、老齢になると巣外で攻撃に専念する。このように齢に応じて仕事を転換する齢差分業は、行動の可塑性を解明する上で重要な現象であるが、その詳しい分子・内分泌メカニズムはほとんどわかっていない。

本研究では、本種の齢差分業に関与する遺伝子を特定するために、候補遺伝子の探索を行なった。その中でもとくに、foraging遺伝子に着目して研究を行なった。foragingはセンチュウ、ショウジョウバエ、ミツバチなどの様々な生物において採餌行動や社会行動に関与することが分かっている。とくに、ミツバチの育児と採餌の齢差分業の切り替えでは、foragingの発現が重要であることが示唆されている。本種の兵隊階級における、掃除行動と攻撃行動の切り替えにおいても、foragingが重要な役割を果たしている可能性が高い。

そこでforaging がコードしている、cGMP-dependent protein kinase(PKG)の活性を上昇させる物質である、cGMPアナログを若齢兵隊に投与する実験を行なった。その結果、投与された若齢兵隊は、高い割合で攻撃性を示すようになった。このことから、PKGが加齢に伴う攻撃行動の発現に関与しているのではないかと考えられ、アブラムシの不妊階級における齢差分業に、foragingが関わっていることが示唆された。


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