| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-619

河川工法によるタコノアシ個体群保全の可能性

*比嘉基紀(東京学芸大学),師井茂倫,大野啓一(横浜国大・院・環情)

タコノアシは,河川,湖沼,水田などの湿性環境に生育する多年草で,地表攪乱を直接の機会として更新する攪乱依存種である。近年,湿地開発に伴う生育立地の消失に加え,水文環境の人為的改変による立地の安定化によって本種の更新に必要な地表攪乱の頻度・規模が減少している。このため,本種は全国的に個体数が減少しており,保全手法の確立が求められている。木曽川感潮域ケレップ水制群周辺では,自然堆砂地に加え石積護岸上でも多くの個体が確認された。そこで本研究では,護岸上におけるタコノアシの生育立地と主要植物の地下形態について調査を行い,本種の保全策について検討を行った。護岸上の草本植物の出現特性と立地環境(堆積粒度物組成・冠水時間・堆積物厚)について調査を行った結果,砂泥堆積物厚が薄い立地では多くのタコノアシが出現したのに対し,砂泥が厚く堆積する立地ではヨシやマコモなどが出現する傾向にあった。しかし,砂泥が厚く堆積する立地でも,堆積物厚の不均一性が高い立地ではタコノアシの出現が認められた。このことから,護岸上における草本植物の分布には,砂泥堆積物の厚さが影響していると考えられる。そこで,優占種のタコノアシとヨシ,マコモについて,地下形態の観察を行った結果,タコノアシは不定根を約15cm以浅に分布していたのに対し,ヨシは一次根茎を約25cmまで,マコモは約20〜35cmの深さまで伸長していた。よって,タコノアシは堆積物の少ない立地でも生育は可能であるが,ヨシやマコモなどが護岸上に生育するためには,ある程度の土砂の堆積が必要であると考えられる。以上のことから,ヨシやマコモなどの大型単子葉草本の侵入が難しい立地環境,すなわち巨礫などを配置してこれらの地下茎の伸長が制限される立地を形成することで,タコノアシ個体群の保全が可能ではないかと推察された。


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