| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-636

外来昆虫の移入地環境への適応:ブタクサハムシにおける光周性の変化

田中幸一(農環研),村田浩平,松浦朝奈(東海大・農)

外来生物が移入地に定着し分布を拡大するためには,移入地の環境に適応しなければならない。移入地の環境は原産地とは異なるため,適応の過程で特性が変化することがある。北米原産の外来昆虫であるブタクサハムシOphraella communaは,1996年に千葉県で発見されたが,その後急速に分布を拡大し,現在までに沖縄県を除く全都道府県で発見された(初宿・守屋 2005; 守屋 私信)。このように日本列島を南北に急速に分布を拡大したため,本虫の移入時の生活史特性は各地域の気候や寄主植物のフェノロジーに適しているとはかぎらない。もしそうであるなら,移入後に生活史特性が変化する可能性がある。

そこで,気候や寄主のフェノロジーと関係の深い光周性に変化が生じたか調査した。本種は短日で成虫の生殖休眠が誘起され,1999年につくば市で採集された系統の成虫休眠率は,16L:8Dで0%,14L:10Dで25%,12L:12Dで100%であり,臨界日長は14時間より長いと考えられた(Watanabe 2000)。2005〜2007年の各年につくば市で採集した系統を,異なる日長で飼育し,雌成虫の休眠率を調べた。休眠率は,12L:12Dでは86〜96%,13L:11Dでは12〜58%,14L:10Dでは1〜16%となった。1999年系統では100%休眠した12L:12Dでも休眠しない雌があらわれ,臨界日長より短日であった14L:10Dでは休眠しない雌が多くなった。これらの結果は,本種の光周性がわずか数年で変化したことを示唆している。このように急速な光周性の変化を生ずる遺伝的機構を明らかにするため,人為淘汰実験を行っており,その経過についても報告する。


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