| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-637

著しい色彩多型を示す外来種スイセンハナアブの分子同定

*須島充昭,伊藤元己(東大・総合文化)

スイセンハナアブMerodon equestrisはヨーロッパ原産のハナアブで,幼虫がヒガンバナ科(スイセンなど)やユリ科などの球根を摂食するため,原産地では害虫とみなされている.日本では1954年に横浜植物防疫所によって採集された本種の標本が複数残されており,そのころから度々小規模な侵入を繰り返してきたと思われるが,長い間野外には定着していないと考えられてきた.しかし1990年代以降,関東と北海道において本種の野外での採集記録が報じられるようになり,近年増加傾向が続いている.本種はマルハナバチ擬態の種といわれているが,著しい色彩多型を示す種としても知られており,これは交配実験によって遺伝する性質を持つことが確認されている(Conn, 1972).このように本種には様々な色彩型があるため,日本では外来種で害虫という位置にありながら種同定は容易ではない.

本研究ではまず,1990年代前半から様々な会誌等で報じられてきた日本における本種の野外での採集記録を詳しくレビューする.関東では東京と神奈川からの記録が多いが分布は次第に拡大しつつあり,現在ではほぼ全県から記録されている.採集地点でスイセンが群落を作っていることはむしろ稀で,本種の幼虫が野外で主に何を餌資源としているかは今のところ不明である.次に,本種の代表的な4つの色彩型,narcissi,equestris,validus,transversalis(原産地ではこの順に出現比が大きい)のそれぞれについてミトコンドリアDNA COIの部分配列(DNA barcode)を決定し,汎世界的に分布する普通種ナミハナアブEristalis tenaxなど複数種の在来ハナアブのDNA barcodeと比較し,スイセンハナアブの分子同定を試みた.


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